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Selfishly

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忘却の糧 3


「忘却の糧 3」


仄昏い室内には、濃厚な闇が湿り気をおびて空間を遮断している。
もし空気の質量が目に見えるなら、この部屋の空気はさぞ重く、濃く
そして、淫らに映る事だろう。

闇にも白く浮き上がる背中に、手の平を這わせながら、もう片方の手は
先ほどから忙しく小さく蠢いている。
「あっ・・くぅ・・ぅ あ・・っう・・」
ロイの指の動きに呼応する様に上げられる声が、妙にくぐもっているのは、
伏せるような体制で、シーツに顔を埋めている相手の声だからだ。
顔の横に広げられた両手が、先ほどからシーツに皺を作り続けている。
時に引き絞られたりもするから、その紋様は刻一刻と形を変えている。
「どうだい、気持ちいいか?」
粘つくような声で訊ねると、綺麗な髪を振り乱して、コクコクと頷き返す。
その拍子に、金の翳を作る睫から幾筋もの雫が零れ、シーツに汗と同様に吸い込まれていくのが見える。
それがまた、ロイの目には艶やかに映り、この青年を構成しているものが、
如何に全て美しいのかを、知らしめてくれるようだ。

忘却の薬と併用している媚薬は、時間は短い代わりに、効果が絶大だ。
これを飲ませた時のエドワードは、本当に快楽に忠実で貪欲になる。
どこに触れても甘い声をあげ、きつい責め苦にも嬉々として身体を差し出してくる。
そして、薬が切れるまで延々と、強請り続けてくれるのだ。
ロイにとって、素晴らしい誘惑に満ちた相手へと変貌してくれるエドワードになら、
幾らでも付き合っても、欲望が尽きる事も無い。

 
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《 忘却の糧3ー1の抜粋 》
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『あぁ・・・、美しいな・・・』
純度の高い金の瞳は、こんな時でも輝きを失う事はないのか、
欲情を示すように艶を増して、自分を見下ろしている。
そう・・、体制的には常にロイが見下ろしてきたはずなのだが、
この至高の瞳は、いつもいと高き場所にあり、ロイを見下ろしている。

ーーー そんな瞳を見せられれば・・・
       引き摺り下ろしたくて仕方がなくなるじゃないか ーーー

常に綺麗な君を、この薄汚れた自分の元まで・・・。




  *****

演習の訓練は順調に消化されていく。
ロイとエドワードの組み手以来、下士官からのロイの評価は更に高くなり、
畏怖を持って心に刻まれていくようだった。
そしてそれ以上に、エドワードの評判は鰻上がりに上がっていく。
年若くから有名な伝説が、実証されて目の当たり出来たとなれば、
仕える心にも変化があって当然だろう。
その人気の一端には、エドワードの人柄や容姿も、勿論関係がある。
エドワードの厳しさは、自分にも他者にも容赦なく向けられるが、
決して理不尽でも、情けが無いわけでもない。
歳若いくせに、人の世の理の裏街道も見てきた為か、歳に似合わず鷹揚で、寛容な処も見せる。
潔癖そうで、頭でっかちな若造だと思って見ていた者達が、
彼と過ごす中で、考えを改めて行く様が、ロイには手に取るように解かっていく。
・・・過っての自分が、そうだったように・・・
それにエドワードの容姿は、軍の中では異彩を放っているのもあるだろう。
兵士の中には、女神のように神聖視する者達も出ているらしい。

「ヴァルキューレね・・・」
また願望に満ちた名前を付けたものだと、ロイは苦々しく思う。
ブリュンヒルデのように勝利に導く者ではなく、幻想の恋人の名を付けるとは、
ロイの心も穏かではない。
エドワードの人気が高くなることは、仕方が無い事だとは思うが、
純粋な崇拝だけで終わってくれるのかが杞憂にかかる。
中には、自分のような者が混じっていないと、楽観できない程、
ロイは軍を、兵士と言うものを解かっている。
強き者に憧憬を抱き、羨望と嫉妬とを持って仕えていく。
いずれ自分が・・と上に立つ事を願わないものはいないだろう。
それが、服従を望む欲へとも繋がっていく。
縦社会の弊害は、屈服させたいと思う欲望も高めていくことだろう。

ロイは目の前で展開されていく光景を見ながら、闇色の瞳を昏く閃かせる。
エドワードの小さな動作も見落とさず、素早い陣が展開されていく。
号令よりも早く、次への動きを読み取るまでにいってるのには、
さすがと、エドワードの指揮振りを感心するほかない。
『短期間で、良くこれだけ訓練したものだ』
大部隊では無いにしろ、これだけの人数を自由自在に動かせるようになるまでは、
かなりの年月がかかるものだ。
そして、今回それを可能にしたのは、エドワードへの兵士の忠誠心の厚さと強さだろう。
誰も彼もが、エドワードに勝利を捧げる為に必死を見せているのだ。

魔力のような存在感。

人を惹きつけずにはおれないものが、彼には幼少の頃から備わっている。
反発しても、逆らおうとしても、気づけば魅り込まれ、心に、自分に
エドワード・エルリックという存在を植えつけられている。
ロイとて、例外ではないのだから・・・。

最後の布陣を組み終えると、終了の合図が伝えられ、
ワァーと一斉に安堵の声を響かせている。
これで、明後日の演習を待つばかりになる。

『さぞかし、軍のお偉方のど肝を抜くだろうな・・・』

勝利など、戦う前から結果が見えている。
多分、あそこでエドワードを囲んでいる兵士達も皆、確信しているだろう。
エドワードと自分達の勝利を。

ドロドロになりながらも、皆が嬉しそうに明るい笑い声を上げながら、
エドワードを囲んで戻ってくる。
一筋縄でいかない者揃いの筈だが、そんな老練の兵士達でさえ、
エドワードには素直に賞賛を送っているようだ。

軽く手を振り、皆と別れて、エドワードがやってくる。

「お疲れ様です。 本日までの訓練は、無事終了致しました」

敬礼をして報告をしてくるエドワードに、ロイも「ご苦労」と敬礼を返してやる。
歩き出し、二人になると、途端に態度が崩れてくる。
「はぁ~、これで後は明後日の演習で終わりだよな」
やれやれと言うように、首を回しているエドワードに、ロイも軽く頷き返す。
「そうだな。良くやった、お疲れだった」
「な~に言ってんだよ。 本番はこれからなんだから、その言葉はまだ早いだろ」
呆れたような声に、ロイも肩を竦めて見せる。
「まぁ、結果はもう出たようなものだが、一応、後に残しておくか」
「ふん、油断大敵だぜ。 気を抜いて、足元を掬われるヘマは打ちたくないしな」
諫めるような言葉を言ってはいるが、表情には僅かに嬉しさを滲ませている。
ロイの褒め言葉に、素直に返さないのはいつもの事だ。

建物内に入ると、訓練が終わった者でゴッタ返している。
「少佐~、風呂一緒に行きませんかー?」
比較的歳若いグループの一人が声をかけて来るのに、
「俺は、まだ仕事だっつーの!」と怒鳴り返して進む。
掛けられる声に、適当に返しながら、佐官用の階へと上がっていくと、
さすがに静まり返っている。
この階は佐官専用になっている。 今回参加しているメンバーで、
この階を仕えるのは、ロイとエドワードの二人しか居ない。
おかげで、気を張らずに過ごせてはいる。

「じゃあ、シャワー浴びたら執務室に行くから、
 先に行ってても、いいぜ?」
佐官用には、共用と別に部屋にも浴室が付いている。
エドワードが部屋の扉に手をかけて、そう言ってくるのに、
ロイは一瞬、逡巡してから、「そうだな」と返して、自分の部屋から
書類を持ち出して、執務室へと通じる階段を降りて行こうとして、
降りる階にいる人影に気づくと、足を止める。
ロイの気配に気づいた者達も、慌てたように敬礼をして、
ロイに通り道を空けるように避けた。
ロイはわざとゆっくりと降りていく、数段残した処で、
緊張した面持ちで並んでいる者達へと視線を巡らす。
「何用だ?」
威圧感を滲ませた声で誰何すれば、声をかけられた者達の中に動揺が広がる。
返答もなく押し黙ったままの相手たちに、ロイは苛立だし気に返答を促す。
「上官の質問に返答も無しか? どういうつもりだ」
不快も露な低い声で、相手には十分解かったらしく、慌てて口を開いていく。
「申しわけありません! 返事が遅れました!
 先ほど少佐が上にお上がりだったようなので、降りてこられるのを待っております」
「エルリック少佐を?」
ロイの視線が訝しそうに眇められたのを見て、慌てて別の者も言い訳をしてくる。
「はい! 別に疚しいことや、厄介ごとではありません。
 あ、あのぉ・・・、今晩に皆で訓練終了の打ち上げをするんですが、
 で、出来れば少佐にもご参加頂ければ・・・と。
 あっ、勿論、閣下にもですが!」

ワタワタと返事を返している者達の表情を眺めつつ、ロイは深く嘆息を吐きたくなった。

「何やってんの? そんなとこで?」
上から降ってきた声に、青年達の表情が、一瞬にして明るくなる。
「少佐!」
嬉しそうに上げられた声に、エドワードが気軽に声を掛け返してくる。
「何? なんかあったか?」
「いえ、何にも起きてません。
 こ、今晩の打ち上げの件で・・・」
「今晩? あっ、そう言えば言ってたよな」
思い辺りがあったのか、頷くエドワードに、皆も期待を滲ませて返事を返してくる。
「はい! で、皆が、少佐のご参加を窺って来いとの事になりまして」
「俺? 俺はなぁー」
う~んと顎に手をやって首を捻って考えている様子に、周囲がそわそわと返答を待っている。
「んー、じゃあ挨拶と差し入れだけしに行くわ。
 明日明後日の事を考えると、今日出来るだけ仕事終わらせとかないと拙いんだよ。
 代わりに優勝した後の祝賀会は付き合うから、それで勘弁な」
「はい! 顔を出して頂けるだけでも、皆喜びます!
 ありがとうございます!」
口々に礼を言葉にしては、嬉しそうに仲間が待っている処へと戻っていく。
それを見送りながら、エドワードは苦笑を浮かべて言葉を零す。
「飲みすぎないように注意入れとか無いとな」
何せ、本番はその後なのだ。 二日酔い者続出で、折角の訓練がパァーになったら
本末転倒だ。
「あんたも、差し入れしてやってくれよ」
先ほどから押し黙ったままのロイを、エドワードは怪訝そうに様子を見るが、
そう告げておく。
「まぁ構わないが・・・、私はお邪魔だろ?」
歩き出しながら返された言葉に、エドワードが噴出し笑いを返してくる。
「プッ! そう拗ねんなよぉ、仕方ないじゃん、将軍閣下に飲み会の声を掛けてこれる
 部下なんて、いねえよ」
「君ならいいわけだ」
「んー、だってあんただって、大佐の時には同じようなものだっただろ?」
上司は態の良い財布代わりだ。
誘われれば、少しだけ顔を出して、軍資金を足してやるか、渡して行かせるかだ。
が、それも佐官位までだろう。 将軍職にはさすがに、声をかける者はいない。
「さてね? 私は財布代わり程度だったろうが、彼らは君には参加して欲しいんじゃないかな」
「そっかぁー? 変わんないと思うぜ。
 まぁ、俺は食い物を差し入れるから、あんたは飲み物な」
そうして、ちゃっかりと高い方をロイに回してくる。
「君ね・・・」
呆れたロイの視線にも、エドワードはニンマリと笑い返してくるだけだ。
じゃぁ、食堂のおばちゃんに頼んでおこうーと、さっさと自分の分を片付に行ってしまう。
食べ物なら材料費だけ渡せば、夕食に上乗せして作って貰えるだろう。
そして自分には、どうせ手配はエドワードがして、請求書だけ回ってくるのだろう。
一体、幾らの金額が回ってくるんだと、思わず眉間に皺が寄る。
色々な意味で、彼は強かに成長して行ってるようだ・・・。




(あとがき)
アップの際に、禁句キーワードに引っ掛かりました・・・。
初めての事だったんで、凄く驚いてしまって。
で、アップは完全には出来ませんでした。
仕方ないので、引っ掛かったろう部分は期間限定には
なりますが、拍手御礼分に放り込みました。
読みにくいののですが、18禁部分を読みたい方は
そちらへお願いします。m(__)m







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